映画評622 ~ フライト

今回は「フライト」

映画130302

『フォレスト・ガンプ/一期一会』のロバート・ゼメキス監督と『トレーニング デイ』のデンゼル・ワシントンがタッグを組んだ話題作。旅客機の緊急着陸を成し遂げたものの血液中から検出されたアルコールにより英雄から一転、糾弾される主人公の機長の苦悩を描く。弁護士を『アイアンマン』シリーズのドン・チードルが演じ、友人を名脇役のジョン・グッドマンが好演。善悪では割り切れない人間の業の深さを描いた深遠な心理描写にうなる。

主演は、デンゼル・ワシントン
共演は、ドン・チードル、ケリー・ライリー、ジョン・グッドマン、ブルース・グリーンウッド
その他、メリッサ・レオ、ブライアン・ジェラティ、タマラ・チュニー、ジェームズ・バッジ・デール、ガーゼル・ボヴェイなど


<ストーリー>
ベテランのウィトカー機長(デンゼル・ワシントン)は、いつものようにフロリダ州オーランド発アトランタ行きの旅客機に搭乗。多少睡眠不足の状態でも一流の操縦テクニックを持つ彼の腕は確かで、その日もひどい乱気流を難なく乗り越えた。機長は機体が安定すると副操縦士に操縦を任せて睡眠を取るが、その後突然機体が急降下を始める。


アカデミー賞の「主演男優賞」と「脚本賞」にノミネートされた映画だ。

「英雄か、それとも犯罪者か」

そんな宣伝を大々的に行っていた。

しかし・・・

結論から言うと「犯罪者でもあり、英雄でもある」となる。


今日は、ネタバレ全開でいく。


まず、この映画はいったい何が描きたかったのだろうか。

「善悪では割り切れない人間の業の深さを描いた深遠な心理描写」だって?

確かに、最後の最後、主人公ウィトカーは「飛行機に乗る前(乗ってからも)に酒を飲んだ」と告白する。

しかしこれは、その直前からは、まったく予想もできない主人公の告白である。

いや、物語が展開する途中で、「これは、最後に告白するな」とは読めていた。
このニブい私でも、である。

しかし、そこに至るまのでの「心理描写」や「心の葛藤」なんてものが、どこにも描かれていない。
いったい、どこが「深遠」なんだか。

直前まで、主人公は酒を断つどころか、毎日飲んだくれている上に、生き残った乗務員たちに「ウソの証言」まで頼んでいる。

もちろん、友人のチャーリーや彼の弁護士は、公聴会での勝利を勝ち取るために、ありとあらゆる手段を取ろうとするのは仕方がない。

しかし、それに対して、主人公は協力しないどころか、反発してばかり。

しかも、あろうことか、前日まで約9日間断っていた酒を、なぜか直前にがぶ飲みして泥酔する始末。
(あのシーンも、何か変。どうして隣の部屋に行き来できるような部屋なのに、事前に何にもチャックしてないの?)

そして、何とか表面だけ繕って公聴会に出るのだが・・・

それから公聴会での終盤までの間に、彼の心にいったい何があったのだろう。

機内にあったウォッカがなくなっていることから、「誰かが酒を飲んだはず」という事実を突き付けられて、それを前夜一緒に過ごした同僚の女性に罪をかぶせることに良心の呵責を感じたの?

しかし彼女は、元妻でもなければ、今度妻のなる予定の女性でもない。
ただのセフレである。

そんな彼女に対して、「彼女は機内にいた少年を助けるためにシートベルトをはずした。そんな彼女にいくら何でも罪をかぶせるのは忍びない」というのなら、そういう描写が必要なはずだけど、少なくとも私にはわからなかった。

いや、そんなものはなかった、と断言できる。

にもかかわらず、最後の最後になって、急に「いい人」になったところで、誰が感動できるものか。


しかも、主人公は、当日だけではなく、その前日も前々日も、そして当日以降も、とにかくのべつ幕なしに飲んでいる。

つまり、今までも「酔っぱらって飛行機を操縦」したことがあるはずだ。

というか、気づいている人はたくさんいたはずだ。

だから、いくら偽証をしたところで、いずれはバレることだ。

このあたりの描写がまったくないのにも違和感がある。

「その日に限って、なぜか飲んでしまった」という展開であれば、もうちょっと主人公にも感情移入ができただろうに、もうどうしようもない「飲んだくれ」なのである。

感情移入のしようがない。


しかし・・・である。

それと乗客救出劇とはまったく関係がない。

つまり、主人公は酔っ払って操縦はしたのだけど、飛行機の制御ができなくなるという最悪の事態の中で、最高の操縦をして、乗員・乗客の大半を助けたのは間違いない。

ということは、彼は間違いなく「英雄(ヒーロー)」だ。

乗員・乗客の中で、いったい誰が彼を責められようか。

にもかかわらず、公聴会の後、刑務所(?)に入った主人公の回顧の中で「許してくれた人もいたが、許してもらえなかった人もいた」という旨の告白をしている。

誰だ? 彼を「許さない」と言ったヤツは。

半身不随となってしまった副操縦士か?

でも、彼は操縦不能になった機内で、パニック状態になっていて、救出劇については、ただの脇役でしかない。

だいたい、パイロット10人に対して行ったシミュレーションでは、10人全員が「生存者ゼロ」という結果になったほどの状況である。

副操縦士も、主人公がいなかったら確実に死んでいたはず。

酔っ払っていなければ、乗員・乗客全員が助かったかも知れない?
いやいや、それにしたって、彼はヒーローだろう。

となると、亡くなった6人のうちの誰かの身内の者?

いやいや、事故の原因は飛行機の「整備不良」であって、主人公の操縦には何の落ち度もない。

文句を言うとしたら、相手は飛行機会社でなければおかしい。


例えて言うなら、あるレストランで、食中毒が発生し、その店の客全員が食中毒になり、何人かが危篤状態に陥ってしまった。
そこには、全員を運べる車(マイクロバス)はあるのだが、運転手も危篤状態だ。
そんな時に、唯一症状が軽かった男が、酒を飲んで酔っ払ってはいるのだが、「よし、オレが運転してやろう」ということで、全員を乗せて病院に向かった。
しかし、残念ながら食中毒にかかったうちの数名が途中で亡くなってしまった。
ただ、それ以外の者は全員助かったとする。

さて、こんな時に、運転して皆を助けた男は、確かに「飲酒運転」ということで罪には問われるだろうけど、いったい誰が彼を責めるというだろうか。

食中毒にかかった人は、全員彼に感謝するはずだし、亡くなった人も文句を言う相手は、運転した男ではなく、食中毒を起こした店であるはず。


この映画は、そんな中味なのである。

これの、いったいどこがアカデミー賞「脚本賞」候補なの?

せっかく、デンゼル・ワシントンがいい演技をしたところで、こんな脚本では、感動しろという方がおかしい。

ということで、単なる「ベタな展開」なだけの映画かと思っていたけど、あまりにも唖然とする結末だったので、ちょっと期待していただけにその落差は大きく、評価は久々の「D」にします。


おまけで・・・

ラストで、主人公の息子が刑務所まで訪ねてきて、彼(父親)についてのエッセイを書きたい、と言い出すシーンでの会話。

息子「いったい何者?(Who are you?)」
主人公「いい質問だ(It’s a good question)」

これって、すごくいい会話なの?
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

アクセス数
プロフィール

はぶて虫

Author:はぶて虫
はぶて日記(映画版)へようこそ!

検索フォーム
最新記事
最新コメント
リンク
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
438位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
208位
アクセスランキングを見る>>
月別アーカイブ
最新トラックバック
カテゴリ
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR